■内容紹介
本書の内容は、目次からもわかるように、相当に変わった本である。内容の選択にあたっては、東北大学の物理学科のある先生の指摘が、指針になっている。それは、“屁理屈はどうでもよいから、こんなことを実際に測定したいというときに、まちがいなく測定できる手法が知りたい。そういう本はないものかね?”という質問を受けたことである。そのときは、“そんな本はありません”と返答してしまったが、今になってみると、そのような本があれば便利かなとも考えるようになった。しかし、理屈抜きの解説本などは、筆者には荷が重いことがしだいにわかってきた。基本的な理屈がわかっていなければどうしようもない。そこで、理論的な事項は最少にして、なんとか役に立つことを念頭において、本書を書き出したが、ほんとうにそうなっているかどうかは、筆者が判定することではないだろう。
実験室の整理の問題から始まって、パソコンの利用法まで気ままに書き進めており、筆者の好みのままに筆を進めたので、普通の教科書のような論理的な構成にはなっていない。必要に応じてどの章を選んでもよいように書いたつもりである。文章のところどころに、チクリとする苦言が挿入されているが、真意を理解していただきたい。(「はじめに」より抜粋)
■著者紹介
阿部 寛(あべ・ゆたか)
工学博士。1957年、北海道大学工学部電気工学科卒業。1960年、工業技術院電気試験所入所、半導体部門研究室所属。1974年、米国Brown大学客員教授。1975年、北海道大学工学部原子工学科量子計測工学講座教授。1997年、北海道大学定年退職、同名誉教授、北海道自動車短期大学教授。
主な著書:「やさしいMacの数値数式処理プログラム」(1990)、「あなたのMacファクトリー」(1991。以上、毎日コミュニケーションズ)、「入門計算物理の手法」(訳書、1993、現代工学社)、「Mathematicaでみる数理物理入門Ⅰ」(1994)、「Mathematicaでみる数理物理入門Ⅱ」(1995)、「Maple Ⅴによる数式処理入門」(1998)、「物理工学系のシミュレーション入門」(1999。以上、講談社)
■目 次
1章 効率的でむだのない実験室の構成と配置
1.1 整理・整とん
1.2 実験台などの配備
2章 最初に装備すべき基本的な測定器
2.1 デジタルマルチメータの選択
2.2 材料の直流における電流‐電圧特性の正確な測定
四端子法とは / 試料の固定法と電極づけ / つまようじは材料実験に便利な日本独自の道
具 / 測定体系
2.3 最初に装備しておくその他の測定器
2.4 最初にあると便利な工具類
3章 電子測定器、電子装置の試作Ⅰ
3.1 電子回路アートワークの多様な手法と実際
通常のアートワーク法(現像、焼つけ、エッチング) / トナーを使う転写法 / 直接法
3.2 電源回路を作ろう
定電圧回路――これはかなりいい加減に作っても動作する / 定電流回路――これは意外
にむずかしい
3.3 計測増幅器を使ってみよう
計測増幅器は普通の演算計測器とどこが違うのか? / 実際に計測増幅器により熱電対増
幅器を作ってみる
3.4 微小な信号を雑音の中から選び出す
低雑音増幅器の雑音源 / 信号に同調した増幅器 / ロックインアンプとその試作 / ボックス
カー積分器
4章 電子測定器、電子装置の試作Ⅱ
4.1 インピーダンスとは何か?
4.2 インピーダンスの測定から何がわかるのか?
4.3 なぜインピーダンスの測定はむずかしいか?
4.4 インピーダンスの測定
交流ブリッジインピーダンスの測定 / 位相の測定法(A.DBMによる位相差の測定、B.
PCM法による位相測定、C.掛け算器による位相の検出、D.サンプリング法による高周波の
位相測定) / 高周波用のIC
5章 物理量(変位、ひずみ、加速度)のための電子回路
5.1 変位の測定
変位を電気容量の変化として測定 / レーザー光の反射を利用する変位の測定
5.2 ひずみ測定
ひずみとは / ひずみの測定回路
5.3 超音波伝播、減衰測定器
超音波変換器 / 試料の端面の研磨方法 / 圧電変換器を試料の端面に接着
5.4 除振装置について
6章 精密な発信機の構成
6.1 PLL回路とは
6.2 電圧制御発信器
6.3 最も単純なPLL回路の例
6.4 発振振幅の制御―PINダイオード減衰器
6.5 ダイレクトデジタルシンセサイザ(DDS)
6.6 各種の波形を作る
ゆっくりしたランプ掃引回路の例 / 階段波を作る
7章 マイクロ波周波数領域の測定
7.1 伝送線路の回路論
7.2 損失のない伝送線路
7.3 抵抗のある線路
7.4 伝送線路のインピーダンスと反射
7.5 定在波
7.6 スミス図表とは
7.7 S行列について
7.8 AppCAD
7.9 電磁回路解析ソフト
7.10 マイクロ波領域のスペクトル分析器はほんとうに自作できるか?
8章 電子計測にはできるだけパソコンを利用しよう
8.1 PC Scopeとは
8.2 Agilent 82357A USB/GPIBインターフェース
8.3 できるだけフリーなソフトを活用する
TINA PRO / AADE Filter Design / WinSpice
8.4 有料ではあるが高度な回路設計やシミュレーションを可能にするソフトウェア、ハードウェア
は多数ある
LabVIEW / MATLAB